『食生活と身体の退化』書評
「食生活と身体の退化」書評
取り返しがつかない事態になってから改めようとしても遅過ぎる
書評 Dr. Walter C. Alvarez, M. D.
Dr. Walter C. Alvarez, M. D.
米国の医師
世界で初めて胃の電気的活性を調査し、診断胃腸病学部門を創設。
ウォルターC.アルバレス記念賞は有名。原始食の効用
W.A.Price博士の研究
いままでに読んだ本の中でいろいろ考えさせられるという点で忘れられないものに『栄養と退化ー原始食と現代食の比較およびその影響』という本がある。
ある友人が送ってくれたもので,1970年に出た第6版であるが、実はこの本の初版は1939年で、その発刊当時に深い感激をおぼえて今日に及んでいた。
この本がとくに異色であるというのは、著者のWeston A. Price博士が歯科医であると同時に人類学者であり、世界中を歩いて多くの民族の歯と顔つきについて調査し、未開民族と文化民族の歯の比較に開する研究を行なったものだからである。スイスの僻村の住民と平野部の近代都市の住民を比較したのをはじめ、ヘブライ民族を調査し、アラスカでエスキモーを調べ、インディアンについてはカナダの北部、西部、中央部からアメリカ西部やフロリダ地方にわたって研究した。
著者は、さらに、南太平洋のメラネシア人とポリネシア人,東部および中部アフリカにおける諸種族、オーストラリアの原住民と北オーストラリアの島々に住むマレー種族、ニュージーランドのマオリ族、ペルーの古来民族と現民族、アマゾン大平原に散在する諸種族などについても調査を行なっている。また、この実に広範囲にわたる調査旅行中に撮った各種族の顔と歯の写真417点もその著書に収録されている。
完全に近い原始民の歯
この書物の中で、とくに印象に残ることは、著者が繰り返し書いていることだが原始的な民族ほど完全に近い歯をしており、近代的な文化民族ほど虫歯だらけであるという事実である。さらにPrice博士は、原始人の化石頭骨にみる歯は、ほとんど完全なものだとも述べている。ところで、エスキモーは原始的な、孤立した生活をしていて、果物や野菜は全く食べないので、歯や体格が貧弱だと考えられがちだが、著者は、エスキモーの歯がほとんど完全で、身体も強健なことを発見している。だが、不思議にも、あるエスキモーが街の教会に職を得て、カン詰の食料を食べるようになったところ、歯が次々に虫歯でだめになったそうである。
人類学の大家であるハーバード大学のEarnest A. Hooton教授は、科学者たちが、現代人の虫歯だらけな原因をつきとめるのにたいへんな時間をかけながら、なぜ、野蛮人の歯がみんなりっぱなのかを探ってみようとしないのか、といぷかっている。同教授によれば、この本の著者は、他の学者たちが自分もぜひやってみたかったと思うような、画期的な調査をやってのけたのである。
私がとくに面白いと思ったのは、ある原始民族が、娘の最初に産む子供が元気で丈夫で、いい歯が生えるように、特別な食事を半年続けた上でないと、結婚させないということである。また、数々や写真によって、昔ながらの食事で育った子供は顔が横に張っていて、歯並びがいいのに引きかえ、現代食の子供は顔や鼻が細く、歯並びも貧弱なことを示している。私がいまだに不思議でならないのは、世界中のあちこちに散らぱっている未間民族たちがどうしてそんな食事法を会得したかということである。
エスキモーの栄養源
そこで思い出すのは、かつて、イギリスの水兵を満載した船が大西洋の北西航路を求めて北極へ出かけたときの話である。ほとんど全員が壊血病と栄養失調で死んでしまった。北極探険で有名なステファンソン博士がいっているように「なぜ彼らは、まわりにいるエスキモーが元気なことに気づかなかったのだろう。そして、エスキモーが何を食べているかをなぜ注意してみなかったのだろう」。そうすれば,エスキモーは動物を殺して食べるときには、イギリス水兵たちがやったように肉だけを食べるのではないことに気づいただろう。エスキモーは肝臓や腸のような内臓のほうを好んで食べるのである。それにアザラシの脂も盛んに食べる。エスキモーの栄養源のほとんどは魚類の内臓である。
そのほかには、必要なビダミンCを夏の間に採集した草の実や草や水中植物、球根、落花生などから摂り、さらに貯臓して冬にも備える。面白いことに、エスキモーは必要なビタミンCの相当量をクジラの皮の内側の部分からも摂っていることを、Price博士が発見している。
たいへん興味深いことは、多くの未開民族が肝のような内臓を、それも煮たり焼いたりしないで食ぺることが大切であることを知っている事実である。魚卵の干物は子供の食料として責重なものとされている。
Price博士は、カナダ北部のインディアンたちがトナカイとオオジカの内臓を好んで食べることに注目している。彼らは獲物を殺すと、まず、一番のご馳走として腸を食べるのである。何年か前に、ある動物園の園長から開いた話だが、肉食獣に子を産ませて増やすためには、肉だけの飼料ではどうしてもだめで、雄の子牛の内臓を生で食べさせるとうまくいくそうである。オーストラリア北方の島々では、住民が盛んに貝類や甲殻類を食べて、健康を保っているが、それも、植物の根や果物の生や料理したものをいっしょに食べるからだそうである。
アフリカ原住民の食べもの
さらにPrice博士が述べているところによると、東部や中部アフリカの原住民は、甘藷や豆類その他雑穀を主に食べ,、湖や河の近いところでは盛んに魚を食べる。
また、種族によっては湖にいるハネのある昆虫を大量に食べる。この昆虫は干して粉にし、ビタミンCを多量に含んだプディングにするのである。それに、巨大なアリ塚からとれる大量のアリのほか、イナゴやバッタやセミなども彼らの食糧である。
オーストラリアの原住民たちは、その地方の野生勤物の臓物を主として食べ、ニュージーランドのマオリ族は「羊鳥」と魚とエビが大好物である。ペルーの海岸沿いに住むインディアンは好んで魚を食べるが、とくに、大型の魚の卵と臓物が好きだという。海岸から300kmも離れたところに住むインディアンが、魚と貝類を食べたさに、しょっちゅう歩いて海までやってくるのはPrice博士も感心したと書いている。
また、同博士は,ブリティッシュ・コロンビアのインディアンが糖尿病の治療に用いる、ある種の植物について書いているが、それがインスリンに劣らない効果があることは、Canadian Medical Journalにも書いている。
ある医師がPrice博士に、原始的な生活をしているインディアンとエスキモーには癌がめったにないことを話したとあるが、これは研究してみる価値のあることだ。もう一つ面白い話は、カナダ北部で、ある開拓民の1人が、明らかにビタミンAの欠乏で視力を失いかけていたときのことである。インディアンがマスをとってきて、その眼と眼の奥の部分を食べろという。そこで、困りきっていた男がさっそく、いわれた通りにすると、たちまちその男の視力が回復したというのである。ところで、私にとって、どうにも合点がいかないことは、いままでに知る限り、どんな化学者も、このような事実の背後をつきとめようとしていないことである。
原始民族がすばらしい歯や顎をしているのが、獣や魚の生の臓物を食べるせいだといわれるのに、なぜ化学者たちはその成分をみつけようと努力しないのであろうか。
食物の有望な薬効
1970年版の同書の末尾には、Price博士ほかによる、いくつかの食物の薬効についての研究報告が記載されているが、これらは、きわめて有望なものばかりである。Price博士は普通のバターに特殊な処置を加えて、責重な「活性剤」をみつけ、それが虫歯予防に著効のあることを証明している。同博士は、未開種族がそのX活性剤のような身体づくりの因子に富んだ食物によって、歯の丈夫さまで保っているのだという。
この本の補遺の1章でAlbrecht博士という人の研究報告をとりあげている。
それによると、野菜類の栄養価は栽培されている土壌の質の良否によって左右されるという。土壌の質の良否は、土に含まれる各種の化学物質の量によって左右されるのであろう。地域によって水中含有量の異なるフッ素が、虫歯を防ぐのにすばらしい力があることなどは、われわれがよく知っていることである。Modern Medicine 1973/8 より
1969年は、フッ素による虫歯予防効果を期待して、WHOが世界中にフッ素使用促進を提言した年です。
料理研究家・土井善晴氏 「料理の原点」
「暮らしの手帖59」に掲載
私の好きな料理本
料理を仕事にしているあの方や、料理の上手なあの方は、どんな料理本を手元に置いているのでしょうか。
39人の方々に座右の料理本を見せていただきました。
選ばれた料理本を見ていくと、
人それぞれの原点に触れるようです。土井善晴さん・料理研究家
①『命の窓』②『食生活と身体の退化』③『昔の百姓』
②は未開人の歯やあごの骨が、現代の食によって退化していく様が書かれた本です。
20歳くらいのときに読んで、とてもショックを受けました。
そのとき感じたことが、私の料理の原点かもしれません。